2024.7.31

繊維からペレット、そして製品へ
目に見える素材の循環
繊維からペレット、そして製品へ
目に見える素材の循環

ファッション産業は、環境負荷の大きい産業と言われています。

流行にあわせて次々に服が生み出され、その役目を終えればほとんどリサイクルされず焼却処分されてしまう。

アパレル業界の担い手として、その課題解決に取り組むことはできないか。

環境への意識が今ほど高くなかった30年前から、衣類のリサイクルに取り組んできたのが、株式会社エコログ・リサイクリング・ジャパンです。

ポリエステルの衣類をリサイクルし、ペレットに生まれ変わらせる。そんなマテリアルリサイクルの技術をドイツから輸入し、日本で展開してきました。

つくり手としての責任に真摯に向き合う、代表の和田さんに話を聞いてきました。

はじまりは30年前、衣服リサイクルの先駆けに

広島県福山市に本社とリサイクル工場を持ち、日本橋の繊維街にもオフィスを構えるエコログ・リサイクリング・ジャパン(以下エコログ)。

母体は、70年ほどの歴史を持つアパレルメーカーで、主にコートやジャケット等、アウター類の企画・製造・販売を手がけている。

1994年にエコログを立ち上げたのは、現代表である和田さんのお父さん。共同出資者として、大手素材メーカーや商社、ボタンメーカーも参画していた。

「当時父が言っていたのは、コートをつくるメーカーとしての責任。自分たちのつくった商品の循環に、最後まで責任を持つべきだと。加えてビジネスとして、コートの買い替え需要を促すという意図もありました」

代表の和田さん。オフィス付近の問屋街にて。

主に取り扱っていたコートがポリエステル素材ということもあり、ポリエステル製の洋服を回収してリサイクルできないか、という研究に取り組みはじめる。

ヨーロッパを視察するなかで出会ったのが、当時すでにドイツで確立されていた衣類のマテリアルリサイクルの技術。

「以前からドイツは環境意識の高い国で、リサイクルが当たり前に社会に浸透していました。そのなかでも、うちが採用しているマテリアルリサイクルは、小規模な設備で実現でき、CO2の排出量など環境負荷も少ない方法です」

「そこに父親が目をつけて、ドイツの「ECOLOG RECYCLING GmbH」とライセンス契約をすることになり、新たにグループ会社としてエコログを立ち上げました」

本社常設の工場やそこにある機材は、事業理念に共感した、国や広島県、福山市からのサポートを得てつくったものだそう。

お父さんが急逝したのち、2005年から会社に関わるようになった和田さん。元々はIT業界で働いていた。

「モノを扱う繊維業界は、前身のソフトウェア業界とは性格が異なり、経験・技術に基づくコツやキモ、暗黙知に頼る部分が大きいことに気づきました。そして、いまやその伝統的な職人的側面こそがブレイクスルーの源となると強く思います」

「技術的な障壁を乗り越えてうちのペレットから製糸してくれたり、生地化してくれたりする会社さんは多数いらっしゃいます。取り組みをサポートしていただける同業他社さんも増えてきているので、もっとやらないといけないという使命感はありますね」

企業ユニフォームがトートバッグになるまで、ユニフォーム生地の裁断→繊維のペレット化→製糸の工程をたどる

小規模で小回りが利くマテリアルリサイクル

エコログのマテリアルリサイクルは、回収したポリエステル製品の裁断からはじまる。ボタンなどの原料化出来ない部分を取り除き、生地を融解していく。

溶かしたものを棒状に伸ばして、冷却。それを小さくカットし乾燥させると、ペレットができあがるというシンプルな工程だ。

基本はポリエステル100%が好ましいものの、混合繊維の衣服でも、酵素の力でポリエステルだけを抽出してリサイクルすることができる。

「8時間の稼働で1トンほどのペレットが出来上がります。大手繊維メーカーのプラントと比較すると、非常に小規模。それゆえに、小ロットにも対応できるという良さもあります。新品のペレットをつくるよりも、製造時のCO2の排出を約20%に抑えられる点も特徴です」

溶かしたポリエステルを再度ペレットにする工程

「正直、この取り組み自体は30年間ずっとやってきたことなので、あまり新しいとは思っていなくて。ペレットをつくるという本質的なところはずっと変わっていません。ただ、ここ数年でリサイクル製品に対するお客さまの寛容度が広がり、さまざまな用途で活用してもらえるようになった実感はあります」

2000年代はあまり関心を持たれることがなかったという、エコログの技術。環境配慮への理解が今ほど進んでおらず、リサイクルによるコストアップが許容されにくい時代だった。

ここ数年は、SDGsなどが認知されるに従ってリサイクルへの関心が高まっている。少々値段が高くなっても、再生素材を活用しようとする企業も増えている。

1対1で紐づく、透明性のある循環

「エコログのマテリアルリサイクルでは、素材を溶かして固めているだけなので、元の服の繊維の色がそのまま反映されます。出来上がったペレットは、成形して雑貨にしたり、また衣服にすることもできます。ただ、細い糸に再生するのはまだ難しくて、エコバックやフリースなど、厚手の生地の製品になることが多いです」

「良さとしては、元の製品とリサイクル品が1対1で紐づくこと。回収した衣服が、別の回収品とは分別されて再生できるので、確実に追跡可能で透明性があります」

企業の制服カラーがそのまま反映されたペレット

企業が制服やユニフォームをリニューアルする際、それまで着用していた古い制服を回収してリサイクル。それを原料化することで、さまざまなアイテムへ生まれ変わらせることができる。

たとえば、その原料から成形したボタンを新たな制服に使用したり、製糸して生地をつくりエコバックを生産し、回収元の企業へ新たなアイテムとして納品したり。

取り組みの一例として、食品会社の古い制服をお箸にリサイクルし、地元の学校へ寄付をして家庭科の授業で使っている事例もある。

リサイクルに出したものが、どのような道筋をたどり、最終的に何に生まれ変わるのか。最後まで見届けられる機会は、衣服に限らず、ほとんどないのが現状。

きちんと責任を持ってリサイクルに取り組みたい企業にとって、循環が目に見えるエコログの透明性は、きっと魅力に感じられるはず。

ペレットから成形したプレート。企業の制服カラーを活かした成型品を製造できる

「デメリットとしては、一般的な新品の製品に比べるとコストアップになることと、リードタイムの長さですね。そもそもうまくペレットがつくれるのか、その後製品化できるのか。元の製品に左右される要素が多いので、新品よりも試作に時間がかかります」

コストアップやリードタイムの長さを、今後の自分たちの未来を守るために必要な投資だと理解し、協業して取り組んでくれるパートナー企業は年々増えてきている。

「あとは品質が落ちてしまうことですね。現状の技術だと、再生したものの品質が新品と同等になることはありません。それを前提に、どのように用途開発するか、というところが頭を使うところです」

再生したペレットの不均一さをあえて残すことで、目に見てリサイクルしたものとわかるように。

皆様からお預かりした愛着のある衣類が形を変えて生まれ変わる。

新品同等の美しさを目指すよりも、デメリットを逆手に取った魅力ある製品を生み出していきたい。

化粧品の廃容器から生まれた、唯一無二の柄のフラワーポット

「ものそのものだけで見ると、品質のわりに値段が高くて受け入れてもらいにくい。だから、リサイクルしたとわかってもらえるほうがいいと思っていて。元の製品との関係性とか、循環の流れの透明性さを重視する方々に届けられたらと考えています」

アパレル産業の担い手として

エコログには、賛同企業のネットワークがあり、ペレットを製糸する紡糸工場や、ボタンなどの付属品を扱う商社、アパレルメーカーなど、現在54社が加盟している。

また、これからネットワーク会員向けのポータルサイトもリリース予定。エコログのリサイクルによってどれくらいCO2を削減できるのか、より具体的にわかるサイトをつくるそう。

この輪をもっと広げていくため、アパレル業界にかかわらず、さまざまな会社が参加しやすい仕組みを整えていきたい。

企業ユニフォームのマテリアルリサイクルで生まれたお茶碗。模様は成形時に偶然生まれたもの

「今、回収後の在庫素材もあるので、それらをうまく商品化して、事業を成長させる方法も探っていきたい。より付加価値の高いものを開発していくために、デザイナーの方の力もぜひお借りしたいです」

これからは、メーカーのつくる責任、そしてユーザーの使う責任をより考えていく必要があると、和田さん。

「個人的には、服に限らず、いいものを長く使うことが一番だと思っています。安く調達できることは重要なんですけど、使い終わったあと最終的にどうなるのか、そこまで責任を負えていない。これは、アパレル業界全体の問題意識としてあると思います。使えなくなったらペレットにリサイクルしてもいいですけど、それまでの段階で、まずいいものを長く使う。根本的にそっちに戻せたらいいですよね」

「環境問題だけではなく、人権問題も含めて、アパレル業界をより良くしていくお手伝いができればいいかな。そのための技術も考え方も含めて、社会全体で意識レベルが上がっていけばいいなと思っています」

長年アパレルに携わってきた担い手として、より良い業界のあり方を考え続ける。

大きな課題のある業界ではあるけれど、独自技術を持って少しでも解決に向かおうと進んでいるエコログ。この活動の可能性を広げることで、社会に与えられるインパクトもきっと大きいはずです。