廃蛍光灯を
自社で一貫リサイクル
テクスチャーで魅せるガラスへ
廃蛍光灯を
自社で一貫リサイクル
テクスチャーで魅せるガラスへ
きちんと分別して捨てていれば、リサイクルされて何かに有効活用されているはず。
自分が捨てたゴミがその先どうなるかまでは知らないまま、そう思い込んでいることは意外と多いかもしれません。
私たちが思うよりも、リサイクルのしやすさは後回しで、多くのものが生産されている。スタジオリライトの田口さんのお話を聞いて、あらためて気づかされました。
廃蛍光灯を回収し、自社で一貫してリサイクル処理。そのガラスを再利用して、美しい製品を生み出しているのが、スタジオリライトです。
ここで生まれるガラスの魅力は、多種多様なテクスチャーを持っていること。ホテルやオフィス、店舗、個人邸など、さまざまな内装・外装のアクセントとして使用されています。
ガラスの廃棄・リサイクルが抱える課題は、あまり知られていません。技術力を駆使して、適正なリサイクルの循環を生み出してきた、スタジオリライトを紹介します。
やるなら徹底的にやるリサイクル
スタジオリライトは、石川・金沢に本社を構える株式会社サワヤの一事業部。
田口さんはゼネラルマネージャーとして、スタジオリライトの責任者を務めている。
創業49年のサワヤは、もともと電気工事業からはじまり、蛍光灯や照明器具の販売、廃蛍光灯の回収などへと事業を広げてきた。
回収した蛍光灯は産業廃棄物として処分していたものの、当時北陸には、蛍光灯に特化した処理システムを持つ会社がなかった。人体に有害な水銀が含まれていても、埋め立て処理されてしまうケースもあったという。
「自分たちが販売した蛍光灯は、最後まで責任を持って面倒を見なければいけない。会長が蛍光灯に特化した処理工場をつくろうと決めて、水銀処理装置の開発からはじめました」
「うちの会長は、やるなら徹底的にやれという姿勢の人なんです。手間がかかっても徹底的に分別しなさいと。環境に配慮した事業を行うことは、会社方針にもなっていて。節電対策になる屋根の遮熱シートを開発したり、オフィス家具のリサイクルショップを運営したり、幅広い事業のなかでも一貫している姿勢です」
自社の処理工場が完成し、蛍光灯のリサイクルをはじめたのが、25年前。
「ただ、処理後の金属部品は回収してくれる業者がいるんだけど、蛍光灯のガラスだけは出荷先が少なく困っていた。それなら、自分たちで溶かして何かにリサイクルできるんじゃないかと、スタジオリライトの事業がスタートしました」
テクスチャーで魅せるリサイクルガラス
長年ガラス職人として、日本各地で働いてきた田口さん。サワヤの尾崎現会長と出会い、入社しないかと誘われたのが19年前。
「当時はリサイクルガラスって言葉自体、馴染みがなかった時代です。僕もピンときていなかったんですけど、実際に会社を訪れて溶けたガラスを触ってみると、思ったよりも使えそうだ、と感じました」
蛍光灯に使用されるのは、ソーダガラスと呼ばれる種類のもの。
熱で溶かしたときの粘度が高く、冷めやすく固まりやすいという特徴がある。高級グラスのような細かな細工を施すのには向かない反面、すぐに次の作業に移れるので作業性はいい。
「色は少し緑がかっていて、昭和のレトロなガラスに近いような印象になるのが特徴です。あと、細かい気泡が入ります。添加剤を入れれば抜くことも可能なんですけど、その泡がおもしろいんじゃないの?という考え方で、あえてデザインとして活かしています」
無理をして新品同様の規格に合わせるのではなく、リサイクルガラスそのものの風合いを活かしていく。
蛍光灯に限らず、テレビのブラウン管や、トンネル内の電灯として使われる低圧ナトリウム灯のリサイクル素材も扱うスタジオリライト。どれも水色だったり、灰色がかっていたりと、そのガラスごとの色味がそのまま反映されるのが持ち味だ。
今でこそ、リサイクルガラスという素材の価値を際立たせられてはいるものの、当初はどんな打ち出し方をしていくか、田口さんは悩んでいたという。
「すでに安価な製造システムがある製品に参入したところで、価格競争で負けてしまう。リサイクルガラスだから、と理解してお金を出してくれる人が、一体どれだけいるのだろうかと考えていました」
製品化して販売することだけを考えていたところ、製品ではなく“素材”として見せるのはどうか、とアドバイスをもらう。
「ガラスの一番きれいなところは、つくっている最中なんです。僕らが見てきれいだと思うガラス素材をみんなに見てもらえばいい。そう思えたところがターニングポイントです」
あえて大きい気泡が入るようにつくられたテクスチャー「Drop」や、砕いたガラスを組み合わせ、表面に波打つような動きを表現した「Bumpy-s」シリーズなど。
「この瞬間きれいだから止めてみよう」「お客さんからの要望、やったことがないけれど挑戦してみよう」
そんな実験を繰り返すうちに、テクスチャーのラインナップは20にもなった。
「テクスチャーを見てもらうことで、『この柄でものをつくりたい』という依頼をもらうようになりました。テーブルトップやパーテーションなど、インテリアのアクセントに、デザイナーさんや設計士さんから声をかけていただくことが多いです」
今は9割がオーダーメイド品。1,000×3,000mmの大判の板ガラスから、ブローワークでつくる小さなテーブルウェアまで製造可能。
表面のテクスチャーが天井に反射し、空間全体の雰囲気が変わるランプシェードなども、スタジオリライトのガラスだからできる空間表現だ。
最近はリサイクル素材という観点での依頼も増えたものの、「ガラスで何かおもしろい表現をしたい」という動機から、問い合わせがくるケースも多いという。
その都度コミュニケーションを重ねながら、テクスチャーと加工技術を組み合わせ、ほかにはないガラス製品を生み出している。
廃蛍光灯100%のものづくり
資源ゴミの日に、空きビンが回収される。その後、溶かして再生されているかと思いきや、細かく粉砕し断熱材などの人造繊維グラスウールやアスファルトなどの路面の舗装材に使われているケースが大半だという。
ガラスを溶かして、またガラス製品にすることは、一般的に想像される以上にむずかしいこと。
「ガラスって組成成分が規格で決まっていないんです。でも、見た目ではわからない。成分が違うガラス同士を混ぜ合わせて溶かすと、成形後に冷却する過程で割れが生じてしまうことがある。製品の形になってみなきゃわからないというのが厄介なんです」
「どこの国のどの工場で、どんな成分でつくったガラスなのか。明確にして同じ成分のものを扱わないと、ちゃんとしたリサイクルはできない。でも、その仕組みが整備されていないので、ガラスだからと言ってなんでも溶かして再製品化することができていないんです」
一方、蛍光灯は、さまざまな会社が製造しているものの、使用するガラス成分の大枠が同じガラス組成となっている。
厳密には異なっていても、同じソーダガラスと呼ばれる種類。ひと手間加えれば、割れが生じるほどの組成の違いは出ないので、スタジオリライトの循環型ものづくりが成り立っている。
自社で一貫して回収からリサイクルまで行っているので、安全に処理されていると保証された素材だけを使えるという価値も大きい。
「わたしは、蛍光灯等処理されたガラスだけでつくることに価値を感じています。蛍光灯100%であれば、仮に再度廃棄するときがきても、また溶かしてものづくりができる。だから私はずっと100%その素材でつくることに魅力を感じているんです」
「『リサイクル材を使ってつくりました』だけで終わりにしたくないんです。循環型のものづくりをしていきたいのであれば、再び使えるところまで持っていかないといけない。要らなくなるときは、絶対にまた来ますから」
一方で、お客さんのリクエストであれば、カラーガラスと混ぜたものづくりも行う。
自分のこだわりをお客さんに押し付けるつもりはないという田口さん。自分たちのガラス技術を評価してくれて、リクエストをくれたお客さんには、しっかり応えていきたいと話していた。
スタジオリライトの取り組みをさらに広げていくことは、リサイクル素材に興味を持ってもらうきっかけを増やすことにもつながっていくと思う。
リサイクルを考えたものづくりの必要性
市場に出回っているガラス製品は、リサイクルしにくい仕様になっているケースも多いという。樹脂と密着していて分離させるコストがかかったり、かなりの高温でないと溶けない素性のガラスを使っていたり。
「製造工程を考えると簡単じゃないことはわかるし、きれいごとかもしれない。けれど、これからは新しくものをつくるとき、リサイクルフローまで考えたうえでつくらないとダメだと思います。そこまで踏み込んでデザインしていく考え方が、当たり前になっていってほしい」
ガラス原料に含まれる天然資源は輸入品で、これから先も限りなく入手できる保証はない。そういった観点からも、ガラスのリサイクルシステムを真剣に考えていく必要性がある。
「ガラスに限らず、組成の違いでリサイクルが十分にできない素材は多いです。丁寧に分別したら、どれもちゃんとまたリサイクルできる素材なんだってことを、社会に周知させていく。その活動のひとつに思ってもらえるのも、やりがいのあるところです」
今後もテクスチャーのパターンを増やし、多くの人たちにスタジオリライト知ってもらうことで、縮小しつつあるガラス業界を、微力でも盛り上げたい。そう田口さんは話していた。
安さや効率に重きを置くものづくりから、リサイクルをする前提で設計されたものづくりへ。
道のりは長く感じるけれど、社会全体で価値観をアップデートしていく段階に来ていると思います。
循環素材は、まだ確立された考え方のない新しい分野。スタジオリライトの取り組みから、学べることは多いはずです。