2024.10.1

素材そのものがサステナブル
まず知ってほしい
コルクの可能性
素材そのものがサステナブル
まず知ってほしい
コルクの可能性

ワインの栓などに使われる素材「コルク」。

生活に身近なものではあるけれど、どんな材料からどうやってつくられているのか、知っていますか?

原材料は、地中海沿岸で育つ「コルクガシ」という木の樹皮。伐採することなく、剥いだ皮から採れるこの天然素材は、サステナブルな素材として注目を集め始めています。

日本国内では成育しないため、100%が輸入品にもかかわらず、年間約2000トンものコルク栓が国内で廃棄されています。

不要に輸入材料に頼らずに済むよう、飲食店などから使用済みのコルク栓を回収し、リサイクルに取り組んでいるのが「TOKYO CORK PROJECT」

コルクという素材の特徴と可能性、この素材をきっかけに実現したい未来像について、プロジェクトを立ち上げた株式会社GOOD DEAL COMPANYの北村さんに話を聞いてきました。

環境問題を見て見ぬふりはしたくない

TOKYO CORK PROJECTのスタートは、2010年。当時北村さんは飲食店で働いていた。

「そのお店は、提供したワインのコルク栓を1ヶ月ぶん溜めてから捨てる習慣があって。毎月1000本を超える大量のコルク栓の廃棄を目の当たりにしていました。コルクボードやコルクの積み木を子どものころに使っていた原体験もあって、ほかの素材以上にもったいないと感じたのかもしれません」

北村さん。コルク製品の見本が置かれたGOOD DEAL COMPANYの拠点にて。

子どものころから環境問題への関心が高かったという北村さん。動物好きだったこともあり、環境破壊によって動物たちが苦しむ姿を見て心を痛め、「何か自分にできることをやりたい」という想いを抱いていたという。

とはいえ前職の不動産業界では、汚染土壌を海へ廃棄処理したり、新規施設開発のために地域コミュニティの拠点を壊さなければいけなかったり。経済発展のために、環境や人の暮らしが犠牲になることへの違和感が拭えなかった。

飲食業に転職後も、フードロスや水の使用料の多さなどに葛藤を感じる。外食産業に対して、何か新しいアプローチができないかと考えたことが、プロジェクトのはじまり。

「違和感を見て見ぬふりをすることがすごく気持ち悪くて。その感情がずっとベースにあるんです。興味のあることにしか熱中できないタイプなので、この気持ちを何かポジティブな取り組みにつなげられたらと思いました」

ただ、新たな挑戦に理解を示してもらうには時間がかかる。

資金調達のためのプレゼンをしても、儲かるかどうかで判断されてしまい、うまくいかない。加工会社からは、経験のない素材による機械トラブルを懸念されてしまい、試作を断られてしまうことも続いた。

最終的に、友人を介して事業を支援してくれる会社が見つかり、回収の仕組みづくりやリサイクルの方法の確立、協力工場探しに取り組めるように。

再生素材への関心が高まる時代の流れも後押しし、少しずつ理解が広がっていった。

サステナブルな天然素材・コルク

「コルクという素材自体が、非常にサステナビリティの高いものです。その認識が世の中に広がって、需要が高まっている実感があります」

原材料は、コルクガシの樹皮。9年に一度剥ぐ、厚い皮からコルク製品はつくられる。

ワイン栓の場合、皮からそのままくり抜くものを「天然栓」、余った樹皮を粉砕して固めたものを「圧搾栓」と呼ぶ。

樹皮からくり抜いた天然栓

そのほか、コルクボードやコースターなどの日用品も、粉砕したチップを固めてつくられる。

コルクガシの樹齢は250〜300年。伐採することなく、長い期間同じ木から材料を生成することができる素材は極めてめずらしい。

「ただ、製品に使用できる柔らかい皮が採れるまでには、植樹後に少なくとも30年かかる。日本では育たない木材ということもあり、リサイクルのプロセスを確立することには意味があると感じています」

9年に一度剥ぐコルクガシの樹皮

断熱性、遮音性、耐水性、難燃性、そして軽量性や弾力性など。さまざまな機能特性をもつコルクは、実は工業用途でも長年使用されてきた。

建材や電子機器、自動車の部品、さらに宇宙産業など用途は広く、石油系素材に代替が進んではいるものの、その可能性は再び注目を集めている。

リサイクルでも新品同様に扱いやすい

TOKYO CORK PROJECTでは、どんなふうにリサイクルが行われているのだろう。

「このプロジェクトに取り組むにあたり、まずは近隣の飲食店に使い終わったコルクをどうしているか、ヒアリングしてまわりました。多くの店で廃棄されていたんですが、『ぜひプロジェクトに参加したい』という前向きなご意見も多く、後押しになりました」

協力してくれるお店には専用のボックスを設置し、使用済みのコルクを回収。

集めたコルクは障がい者を対象とした就労支援施設に依頼し、コルク栓の種類ごとに選別したり、プラスチック製の栓や金属の留め具などの不用品を取り除いたり。

同じコルクでも栓の種類によって特性が異なるので、安定した品質でリサイクル製品をつくるために、第一段階となる選別は欠かせないという。

コルク栓の回収ボックス

仕分けたコルク栓は、リサイクルに協力してくれる国内のコルクメーカーで粉砕し、ブロックやシート状に加工。

新品のコルク製品と成分が混ざることを防ぐため、普段のラインをストップ。清掃を行い、リサイクル専用ラインとして特別に稼働してもらっている。

その後プロダクトにする場合は、テーブルウェアや家具のメーカーで最終製品に加工している。

ブロックから削り出すケースが多いものの、タイルなどは金型成形で製造。リサイクル品でも加工時の作業性は、新品のコルクと変わらないという。

「木工と同じ加工機器をそのまま使うことができます。柔らかいので刃物も痛めないし、軽くて持ち運びもしやすい。柔らかいから、曲げられるし張り合わせもしやすく、作業性には優れています」

切削加工中のコルクブロック

価格については、現状では輸入されるコルク素材と比べて1~2割ほど割高感はあるもの、取り組みへの共感が広がり、少しずつニーズも増えてきている。これからさらに規模が大きくなり効率化が進めば、リサイクル品という理由で価格が上がることはないと見込んでいる。

マテリアルリサイクルをするうえで課題となりがちな、品質や金額面での心配が少ないコルク。

世の中に浸透していきやすい条件が揃っている、特徴的なリサイクル素材だと感じる。

焼却処分も循環につながる

一方のデメリットとしては、柔らかいぶん使用場所を選ぶことが挙げられる。たとえば、コルクだけで棚板をつくるなどは難しい。

ほかにも摩擦性が強く汚れやすかったり、陽に当たると色褪せしやすかったり、特徴に合わせて適材適所で使うことが求められる。

「最初につくったオリジナル製品はスツールでした。回収したものでまたコルク栓をつくってみたいと思って、デザインもコルク栓を意識しています」

座面にコルク栓およそ350個分を使用したスツール。

柔らかく、加工性に優れたコルク。

コルクボードやコースターに使われるイメージばかり広がっているけれど、家具や什器など、大きな立体物にも使用可能。

「現に、積極的にチャレンジして家具や什器を作ったら、それがご縁でショップの什器や商業施設の内装に使ってもらえるようになりました。事例を示すだけで、『自分たちもこう使えるかもしれない』というアイデアが広がっていく」

「コルクという素材の可能性を、まず知ってもらえるだけで理解が広がって、より高い関心を持ってもらえる状況を生み出せると思っています」

コルク回収に協力してくれている店舗で、再生コルクを使った内装をつくるという事例も生まれている。

今後力を入れていきたいのは、舗装材としてのコルクの活用。

現場で塗り加工することができるし、一般顧客向けにはタイル状などで販売すれば自宅などで手軽に敷き詰められる。

「粉砕するだけというのは、とてもシンプルでエネルギーレスなリサイクルなんです。技術や機械のある特定の会社だけに頼らずリサイクルできれば、より安定的にコルクを再生していく流れにつながっていくと考えています」

「それと、不要になったらどうすればいいか質問を受けることも多いんですけど、焼却処分してもらって全然問題ないんです」

粉砕されたコルク栓。固めた時にコルクの粒感がなくならない粒度になっている

伐採を必要としないコルクは、ほかの天然資源と違って、原材料の時点で循環している素材。

再度リサイクルすることもできるけれど、そうする意味をあまり感じていないと北村さんは話す。

「たとえば飲食店のコースターを、使い捨ての紙のものから、コルクに変えるだけで数ヶ月ライフサイクルが伸びる。それだけで二酸化炭素の抑制につながります。使い終わったら、気兼ねなく焼却処分してもらって構いません」

カーボンニュートラルの考え方から、使用済みのコルクを焼却処分しても、コルクの木が生育する過程で二酸化炭素を吸収し続けているため、二酸化炭素排出量はプラスマイナスゼロになる。

使い終わったものは回収してまた再利用すべきと考えがちだけれど、すべての素材がそうでなくてもいいというのは、新しい視点に感じる。

再生コルクブロック材。バージンのコルク材と見た目も品質も劣らない

ネットワークをつくるきっかけに

現在目標としているのは、日本で廃棄される約2000トンのコルクのうち、30%の700トンほどを自分たちで回収できるようになること。それだけで30億規模となり、再生素材の大きなビジネスを生み出すことができる。

「ただ、コルクのリサイクルは手段のひとつです。僕たちの役割は、その先の『なぜこの素材を扱わなければいけないのか』というところまで知ってもらうこと。大きなビジネスをつくることよりも大事なのは、いろんな方々との接点を持ってネットワークを生み出していくことです」

数値目標を実現するために、必要な協力事業者は5万店舗ほど。仮に30席程度の飲食店だとすると、月間5500万人との関わりが生まれることになる。

「持続可能な社会の実現が必要だと思っていても、情報不足で何をやっていいかわからない人が多いという調査結果も出ています。だから、根本の課題を知ってもらうためのタッチポイントをどんどんつくっていきたい」

食事のついでにアンケートに答えてもらったり、試作品への感想をもらったり。リサーチやテストマーケティングなど、持続可能な取り組みを実現するうえで、さまざまな活用ができるコミュニティづくりがやりたいことのひとつ。

デザインオフィスエーヨンとのコラボレーション商品 『tumi-isi』

「環境のことになるとみんな複雑に考えたり、『意識高いね』って他人事のような発言をするけど、まったくそういうことではなくて。今の使い方で資源がずっと続くと思うの?っていう簡単な話なんです」

「じゃあどうしていけばいいのか。答えはわかっていても、強制的に『これをやらなきゃダメ』という押し付けは受け入れられにくい。だから、楽しみながら取り組んで、だんだん当たり前になればいいなと思うんです」

感覚的にいいな、素敵だなと思ったプロダクトを調べてみたら、リサイクル素材でつくられていた。そんな流れを社会にもっと生み出していくのが理想だという。

「いいことやってますって、別に言いたいわけじゃないんですよね。自分が心地いいと思ってやっていることがこれ、っていうだけだから」

「同じように、ワクワクドキドキするのが好きな人たち、フィーリングが合う人たちと一緒に、コルクの認知を広げていけたらいいなと思っています」

注目を集めつつあるリサイクルコルク。それが一過性のものではなく、社会のなかで長く、当たり前に浸透する素材になっていくために。

まずは知ること、そして関心を寄せることからはじまっていく。それはどの環境問題や循環素材にも通じる姿勢だと感じました。